先輩移住者

鶏小屋・畑・薪とかまど。理想の自給自足生活にチャレンジ中です

2024.03.25公開

東京で暮らしていた熊谷さん一家は、新型コロナウイルスの流行を機に「自然の中でのびのびと子育てをしたい」と思い、移住を考えるようになりました。もともと青森育ちで、寒さや雪の大変さを体験していた美樹さんは「できれば暖かい土地で暮らしたい」と希望。博人さんの仕事が決まったのを機に、まずは都城市に隣接する三股町へと引っ越し、その10カ月後に理想のライフスタイルを求めて都城市に移住しました。現在は、広い土地のある古民家で自給自足を目指す日々を過ごしています。

熊谷 博人さん(38歳) 美樹さん(41歳) 文葉(ふみは)さん(8歳) 春希(はるの)さん(4歳)
  • 先輩歴|2023年に移住
  • 職業|博人さん: 神職 美樹さん: イラストレーター
東京にいた頃から、家族でのおでかけは自然に触れ合える場所が多かった熊谷さん一家。自宅では家庭菜園も楽しんでいたそう

東京にいた頃から、家族でのおでかけは自然に触れ合える場所が多かった熊谷さん一家。自宅では家庭菜園も楽しんでいたそう

信州大学の工学部を中退し、神職を目指して國學院大學へと進学。卒業後は神社業界紙の記者として働いていた博人さん。絵画教室の講師をしていた美樹さんと結婚し、ふたりの子どもに恵まれ、東京都内に戸建ても構えていました。そんな穏やかな暮らしを一変させたのが新型コロナウイルスの猛威。「子どもを幼稚園に登園させていいものか戸惑ってしまう」と感じたふたりは「豊かな自然の中で安心して子育てをしたい」と移住を決意しました。

Q 仕事や家はどうやって見つけたのですか?

サラリーマン時代も心のどこかで神職として働きたい夢を抱き続けていたので、移住を機に夢を叶えました。神職は資格が取得できる大学などに求人が出ることが多いのですが、私はたまたまハローワークのインターネットサービスで現在働いている神社の求人を見つけ、リモートで面接を受けました。住まいを決めたのもオンラインで。単純に職場に近いことから三股町に家を借りましたが、そこでは「私たちが目指す理想の田舎暮らしが叶えられそうにないな…」と思っていたところ、縁あって現在の家との出会いがあり都城に移住しました(博人さん)。

「神職に就いたのは初めてでしたが、周囲の温かいみなさんに支えられています」と博人さん

「神職に就いたのは初めてでしたが、周囲の温かいみなさんに支えられています」と博人さん

美樹さんが描いた漫画が全編に使われた「かもうよしこの子どもと田舎暮らし」

美樹さんが描いた漫画が全編に使われた「かもうよしこの子どもと田舎暮らし」

実は東京からの移住当日、鍵の受け渡しの関係もあって都城の「もちなが邸」(※1)に一泊し、運営を行っている蒲生(かもう)芳子さん(※2)と出会ったのですが、この出会いがわが家の暮らしを大きく変えることになりました。前々から子どもが生まれたら自給自足ライフに挑戦したいと思っていた私に、田舎暮らしに精通した蒲生さんが強い味方になってくれたんです。最初に移住した三股町で始めようと試みたのですが、周辺環境などの問題もあって実現が難しく困っていたところ、蒲生さんが都城の土地付き空き家を紹介してくれたのですぐに引越しました。今、私は都城で最初に訪れた「もちなが邸」で働き、定期的に絵画教室も開いています。2022年12 月には蒲生さんの子ども向け著書の漫画も担当させてもらいました(美樹さん)。
 
※1 国の登録有形文化財建造物。発酵食を生かした食文化を提案する町家カフェとして活用され、民泊も行なっている
※2  「NPO法人手仕事舎そうあい」代表。「もちなが邸」を経営する傍ら、食と環境を学び、実践するエコライフを伝える講演会やワークショップなどを開催。著書「かもうよしこの田舎暮らしを愉しむ」など

Q どんなライフスタイルを実践しているのですか?

わが家はガス会社と契約していないので、料理は薪ストーブや外にある手作りかまどで行っています。天気が悪い日はカセットコンロを使っていますが、今後は屋根を拡張して雨の日でもかまどで調理できるよう計画中です。お風呂はもともとあった灯油ボイラーで沸かし、電気も太陽光発電で一部を賄っています。
今年の春からは本格的に野菜も育てていくつもりですし、鶏を飼っていますので卵や鶏肉には困りません。こうして少しずつ自給自足を実践していますが、まだ知識も経験も足りないので、蒲生さんをはじめ地域のみなさんに教わりながら進めています(美樹さん)。

レンガを積み上げた手作りかまど

レンガを積み上げた手作りかまど

Q 都城で暮らして良かったと思うことは?

何より子どもたちがのびのびと遊べるようになったのが嬉しいですね。学校帰りには長女の友達もわが家の鶏と触れ合いにきます。庭につくったブランコに子どもたちが乗ったり、走り回って遊んだりする姿を見ると本当に移住して良かったと思いますね。
また、満員電車での通勤のストレスからも解放されました。東京では職場まで片道90分もかかっていたのですが、今は車で25分程度とまったくストレスを感じません。むしろ道中で高千穂峰(たかちほのみね)を見るとホッとした気持ちになります(博人さん)。
 
本格的な田舎暮らしを実践できてとても幸せです。都城は本当に人がいいですね。大人も子どもも人に対して優しく、娘たちもすぐに学校や幼稚園に馴染んで友達がたくさんできたので安心しました。また、自然に恵まれた今の環境だと雑音が入ってこないので、自分の作品づくりにも集中できるようになった気がします。たまに、東京での生活が恋しくなることもありますが、都城市内にはオシャレな雑貨屋さんやカフェも多いですし、市立美術館もありアートに触れられるので満たされています(美樹さん)。

アートに造詣が深い美樹さん。「着ていて楽ですし、何より好きだから」と毎日着物を愛用している

アートに造詣が深い美樹さん。「着ていて楽ですし、何より好きだから」と毎日着物を愛用している

鶏たちの飼育は長女・文葉ちゃんが自分で調べ、姉妹ですべて行なっている

鶏たちの飼育は長女・文葉ちゃんが自分で調べ、姉妹ですべて行なっている

Q 休日はどのように過ごしていますか?

庭を整えたり、鶏小屋を建てたり、畑を耕したりと家のことをする日もあれば、マルシェに出かけたり、美味しいお店を探しに行ったりすることも。とにかく都城は地産地消の美味しいお店が多いんですよ。家族で出かける場所には事欠きません(美樹さん)。
 
東京にいた頃はコロナもあって気軽に家族で出かけられず、海に行ったこともなかったのですが、都城に移住してからは1時間程度のドライブで青島や日南などの海に行けるので、移住してきた年の夏は2・3回、海水浴に出かけましたね(博人さん)。

Q これから都城への移住を考えている人へのアドバイスをお願いします。

「自分の居場所」を見つけられるといいですね。都城は移住者も多く、若い人から高齢者まで様々なコミュニティがあります。たくさんの選択肢の中から自分に合ったコミュニティを必ず見つけられるはずなので、いろんな場所に顔を出し、友達をつくるのが楽しく暮らすための一番の近道なのではないでしょうか(博人さん)。

移住は「旅行」ではなく「生活」です。移住したての頃は物珍しさもあって旅行気分でしたが、実際の暮らしは理想的なことばかりではありません。私たち家族は都城に親戚もいなかったので、台風の時などは心細い思いもしましたが、都城の人はとても温かくて親身になってくれました。待っているのではなく、勇気を出して自分から心を開き、たくさんの友人や仲間をつくるのが大切です(美樹さん)。

おふたりはPTAや地域の清掃活動にも積極的に参加しているそう

おふたりはPTAや地域の清掃活動にも積極的に参加しているそう

Editor’s note!

東京での都会暮らしから一転、都城でナチュラルライフを始めた熊谷さん一家。野菜づくりや養鶏だけではなく、エネルギーまで賄おうとするこだわりは驚きでした。また、何より素晴らしいと感じたのは、ふたりのお子さんたちがこのライフスタイルに馴染み、楽しんでいたこと。笑顔で鶏たちの世話をし、暮らしの中で命をいただくことを自然と学んだり、自分の時間に大好きな本を静かに読んで過ごしたり…。そんな姿からは、熊谷さん夫妻が叶えたかった“理想の暮らしと子育て”が伝わってきました。